『弓道教本』に見る弓道教歌

 『弓道教本』全4巻には、76首の弓道教歌が紹介されています。それらを「修練の心得」と「射法八節」に分類してまとめてみました。参考になれば幸いです。なお、誤植や欠落があればご教示下さい。

修練の心得
(巻 ページ)
見どころの なきこそものの 上手なれ (二 10p)
射よや射よ 射るよりまさる師はあらじ 習わぬ知らぬことを知るなり (三 141p)
稽古をば 晴れにするぞと嗜みて 晴れをば常の心なるべし (三 149p)
始めより 心にかけて習わずば あだに月日の数や積もらん (四 33p)
足踏み
八文字 足の間の寸ぞなき その身その身の 曲尺(かね)に合わせて (二 65p)(三 58p)
矢束とは 己が肩幅身の半ば 咽喉(のど)に筈あて 弓手延ばして (三 60p)
程もよく 始めの澄しよき射手は げにも気高く見ゆるものなり (四 27p)
足ぶみは さきの爪さきつよくふみ めて(右手)はきびす(踵)を なおつよくふめ (四 28p)
足踏みは きびすを合せ八文字に 広さ狭さは己が肩幅(大和流) (四 69p)
踏み開く 広さ狭さの足間は 己が矢束の程にしたがえ(日置・吉田・大和流ほか) (四 70p)
中墨の 弓の足踏みはづれなば 習いうけても何にかはせん (四 107p)
足踏みは その身によりて替るとも 股腰強く膝も浮かざれ (四 190p)
膝詰めは すなおに筋を引伸ばし 股根を内にひねり合せよ (四 190p)
胴造り
胴はただ 常に立ちたる姿にて 退かず掛からず 反らず屈まず(大和流) (二 74p)(三 68p)(四 72p)
(四 109p)(四 193p)
身作りは すなをに立ちし 姿にて 心の綱の控えゆるすな (大和流) (二 78p)
胴造り 陰陽そむく事はなし 姿をつよく木仏となれ (四 28p)
肩胸と 腰腹ももに膝口や 地つき弱きは弓にてはなし (四 32p)
胴を柱 腕を貫とは十文字 胸かたこしに轄うつべし  (四 193p)
弓構え
大石を 抱く心を忘るるな 居向きに向けよ 肘口をはれ (二 83p)
手の内は 竹に藤咲くごとくにて 風に従い しめゆるべあり(美人草) (二 93p)(四 214p)
頭持ちとは やよとて人の呼ぶときに 射ると答えて 見向く姿よ (二 101p)
弓構えは 左右のこぶし腰に詰め 張り合う気をば 腹にしずめて (三 91p)
顔持ちは すなおに肩の上におき 目に癖なきを物見とぞいう(大和流) (四 77p)
弓構えは 左右の拳 腰の詰 張り合う気をば 腹に鎮めて (四 193p)
打起し
風もなく 空に煙の立ちのぼる 心の如く うちあげよかし (二 106p)(四 120p)
打起し 構えしままに重々と 押手勝手に片つりをすな (三 104p)
息相は 悟りの道の中なれや 有無の二つは 目中にぞよる (三 109p)
弦煙 龍田の山のもみぢ葉を 顔に散らすな 息の詰まるに (三 109p)
素引きして たやすき弓を左右より もどして弦の納まりを見よ (四 37p)
打起し 手先勝手をゆるやかに 身にも知らせずぬるくあげけり(日置) (四 78p)
打越しは 左右の拳妻手の肱 臍下の詰に張合いてせよ(吉田流) (四 79p)(四 198p)
引分け
引く矢束 引かぬ矢束に ただ矢束 放つ離れに 放さるるかな (一 119p)(二 137p)(四 129p)
引き取りは げに大鳥の羽をのして 雲井をくだる 心得ぞよき(小笠原流) (二 115p)
打起し 引くに随い心せよ 弓に押さるな 思え剛弱 (竹林・大和) (二 115p)
妻手はただ 弦にも矢にも迫るなよ 向きを定めて 軽く引きとれ (二 119p)
押手をば いかにも直にさしのばし なにをふ山を押す心せよ (二 119p)
打ち渡す 烏兎(うど)の梯(かけはし)直なれど 引き渡すには 反(そり)橋ぞよき (二 125p)(四 127p)(四 203p)
弓を引き 弦を引くとに二つあり 押手張るこそ 弓を引くなり (三 123p)
如何程も 剛(つよき)を好め押す力 引くに心のありと思へよ (三 125p)(四 44p)(四 254p)
腹形は さわらぬ息をよく詰めて 丸く満つるぞ強きなりけり (三 133p)
引きつけて 息にさわらず放さずと 己が気ざしをはかり知るべし (三 133p)
たもちとは 矢束一ぱい引きつめて 放れぎわまで息にさわらじ (三 134p)
能く引いて 引くなかかえよたもたずと 放れを弓に知らせぬぞよき (三 134p)(四 217p)
引くとなく ゆるすともなく梓弓 ただ息をのみはると覚えよ (三 134p)
放さんと 思うよりなお息合いは のびることなくつめることなく (三 134p)
かりがねを かけると言うは肘の詰 息と延びとは大事あるべし (三 134p)
引納め かけ弦弓にかまわせず 息もさわらず胴は張りつめ  (三 134p)
貫けぬべき 矢はぬけずして度々に 息のぬけぬる射手はうらめし (三 135p)
弦煙り 立田の山のもみじ葉を 顔にちらすな息の詰るに (三 135p)
四方をも 突き抜くばかりよく詰めて 中にとどむる心なりけり (三 138p)
押引くと 継目な見せそ不二の山 峰と胸とは一つなりけり(竹林派) (四 82p)
引取りは 左右二つに引分けて 唯反りはしにおさまるぞよき(吉田流) (四 83p)
引込は 己が目通り虹形に 弦をたるめず中央をとれ(大和流) (四 83p)
大三に 弓の強弱自得せば 肘に心の味を知るべし (四 200p)
矢束ほど 引いて味え心なく 弦に引かれな 肘の力よ (四 200p)
弦道と いうことを知らぬ射手はただ 櫓櫂(ろかい)もとらぬ 船に乗るなり (四 203p)
伸合いは 弓手に定め妻手にしめ 腹より惣身 筋骨をはれ (二 130p)(三 162p)(四 128p)
(四 211p)
持満とは 矢束一杯ひき詰めて 放れ際まで 息にさわらじ(大和流) (二 130p)
剛は父 繋(かけ)は母なり矢は子なり 片思いして 矢は育つまじ(竹林派) (二 130p)(四 87p)
釣合いは 左右の腰と肩骨と 肱の力に気と心なり(吉田流) (二 131p)(四 211p)
一の字に 引いたる弓は見よけれど 矢の大業(おおわざ)はならぬものなり (三 153p)
この秋は 水か嵐か知らねども ただひらすらに田の草をとる (四 45p)
田の草は あるじの心一つにて 米ともなればあれ地ともなる (四 46p)
持満とは 抱えの内をいうぞかし 居付けば百の業をうしなう(吉田流) (四 87p)
五つある 重ねの十字忘るなよ これぞ姿勢の元の曲尺なり (四 188p)
弛むとは 心のゆるむゆえぞかし 離るる前に 心ゆるすな (四 209p)
鵜の首や 紅葉重ねの手の内は 初心の人に教え射させよ (四 214p)
射手はただ 曲尺と轄(くさび)が大事なり 轄なければ おす是非もなし (四 215p)
離れ
強くのみ 放つと思う射手はただ 矢色もつきて中りそろわず (三 203p)
虎と見て 石に立つ矢も離れ口 ただ息合いの詰まるゆえなり (四 52p)
引きつけて 引くなたるむな手持たずと 離れを腕に知らせぬぞよき(吉田流) (四 91p)
朝嵐 身にはしむなり松風の 目には見えねど音の冷(すさま)じ (四 134p)
伸合いて 胸の張切る射手はただ 見ても吉野の朝嵐なり (四 218p)
放される 放す離れる 三つの品 気より開きて 離るるぞよき (四 219p)
残身(心)
射放ちて 肘に残れる心こそ 後の澄ましのその一つなれ (四 223p)
見どころの なきこそ弓の上手なれ これ六根の揃うゆえなり (四 223p)

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